ものが「見える」とは、眼から入った光の刺激が脳に伝えられ、映像として認識されることをいいます。 まず、光が瞳孔から眼球内へ入り、水晶体で屈折して硝子体(しょうしたい)を通り、網膜で光が感じとられます。 この光刺激が視神経によって脳に送られて、映像情報として認識されるのです。カメラにたとえると、水晶体がレンズ、網膜がフィルムの役割を果たしています。
網膜のなかでもっとも重要な部分は、ものを見る中心となる黄斑です。黄斑は視力にもっとも関わりが深く、色を識別する細胞のほとんどはこの部分にあります。
加齢黄斑変性は、黄斑の加齢に伴う変化によっておこる疾患で、高齢者の失明原因のひとつです。脈絡膜から発生する新生血管と呼ばれる異常な血管(脈絡膜新生血管)を伴うタイプ(老人性円板状黄斑変性)と、新生血管を伴わないタイプに大別されます。
網膜に栄養を送っている脈絡膜からブルッフ膜を通り、網膜色素上皮細胞の下や上にのぴる新しい血管のことです。これは正常な血管ではないので、血液の成分が漏れやすく、破れて出血をおこしてしまいます。
視力にもっとも関わりの深い黄斑が悪くなるため、急激な視力低下や中心暗点(5.主な自覚症状 参照)を自覚することが多く、病状が進行すると中心視力が失われる可能性があります。 また、片眼に病巣がみられたら、もう片方の眼も発症している可能性がありますので、両眼の検査を受けましょう。
黄斑の加齢変化が強くあらわれた状態(網膜色素上皮細胞が萎縮する、網膜色素上皮細胞とブルッフ膜の間に黄白色の物質がたまる)で、病状の進行は緩やかで、視力はあまり悪くなりません。 しかし、新生血管が発生することもあるので、定期的に眼底検査、蛍光眼底検査を行い、経過をみる必要があります。 特に、片眼がすでに老人性円板状黄斑変性になっている場合は、注意深く経過をみなければいけません。
高齢者に多く発症することから、黄斑、特に、網膜色素上皮細胞の加齢による老化現象が主な原因と考えられています。また、男性は女性の約3倍の発症率といわれています。 はっきりしたことは分かっていませんが、全身疾患(心血管疾患や高血圧)、喫煙、栄養状態、遺伝などの関りも指摘されています。
もともと加齢黄斑変性は欧米人に多く、日本人には少ない疾患でした、その主な理由としては、欧米人の眼が日本人の眼に比べ、光刺激(眼の老化を促進する原因)に弱いことが挙げられます。 最近では、日本でも発症数が増加していますが、日本人の平均寿命の延長が原因として挙げられます。また、生活様式が欧米化したこと(主に食生活)や、TVやパソコンの普及により眼に光刺激を受ける機会が非常に多くなったことも原因のひとつと考えられています。
近年の急激な高齢者人口の増加に伴って、患者数が増加しています。患者数のピークは男性では80〜84歳にみられますが、女性では75〜89歳に広く分布しています。また、年齢が高くなるにつれて、両眼に発症する割合が高くなっています。
網膜の中心部が悪くなるので、視野の中心の、もっともよく見ようとするところが見えにくくなります。病巣が黄斑に眼られていれば、見えない部分は中心部だけですが、大きな出血がおこれば、さらに広い範囲で見えにくくなります。
日頃から、ときどき片目をふさいでものを見て、見え方に異常がないか確認しましょう。
新生血管をレーザー光で焼き固める光凝固術が主な治療法です。安全な治療法ですので心配ありません。 また、大量の出血や中心窩にある新生血管に対しては、これらを除去する手術(硝子体切除術)を行うこともあります。
出血の予防のために止血薬を用いたり、網膜に栄養を与えるためビタミン薬を用いたりすることがあります。
治療後の視力は、病状の進行度によってさまざまです。黄斑のなかでも特に重要な中心窩に病態が現れている場合、視力の低下は著明です。 早期に治療を開始すると、良好な視力が保たれる傾向にあります。
加齢黄斑変性と診断された4割程度の人では、経過とともに両眼に発症するといわれています。良いほうの眼も定期的に医師に診てもらいましよう。
亜鉛の血中濃度の低下と加齢黄斑変性の関連が指摘されています。 加齢に伴って、亜鉛が含まれている食品(穀類、貝類、根菜類など)の摂取量が少なくなるとともに、腸の亜鉛を吸収する力が低下してしまうことから、亜鉛不足になりやすいといわれます。 全身の健康を維持するためにも、バランスのとれた食事を心がけましょう。